ボーカルのフェーダーを上げた。少しマシになった。でもまだ埋もれている。さらに上げた。今度はうるさいだけになった——。
★ 上げるのをやめてください。そこが原因ではありません。
この記事では、なぜ上げても直らないのかと、代わりに何をするかを書きます。
★★ まず確かめること:どのタイミングで埋もれますか
★ ここで対処法が変わります。先に確かめてください。
| いつ埋もれるか | 本当の原因 | やること |
|---|---|---|
| ずっと埋もれている | ★ 場所が空いていない | EQ で他の楽器を下げる |
| ★ サビだけ埋もれる | ★★ 音量が揃っていない | コンプで揃える |
| たまに一瞬だけ消える | 他の音とぶつかっている | その瞬間だけ下げる |
★★★ 「サビだけ埋もれる」でフェーダーを上げると、Aメロがうるさくなります。これは音量の問題ではなく、音量の「差」の問題です。
順番を守ってください
★★ これがいちばん効きます。順番が違うと、何をしても直りません。
1. フェーダー(プラグインを全部切って、音量だけで合わせる)
2. EQ(場所を空ける = 引き算)
3. コンプ(音量の差を縮める)
4. ディエッサー(サ行が邪魔で上げられないとき)
5. リミッター(いちばん最後)
★ 多くの人は 2 から始めます。そして、そもそも 1 ができていないので直りません。
手順1|プラグインを全部切って、フェーダーだけで合わせる
★★ 本当に全部切ってください。EQ もコンプもリバーブも。
そのうえで、ドラムを基準にして、他をフェーダーだけで合わせます。
★ この状態で「まあ聴ける」ところまで持っていけない場合、プラグインを足しても直りません。
ここで分かること
★ フェーダーだけでボーカルがちゃんと聞こえるなら、埋もれの原因はプラグインのかけ方です。
★★ フェーダーを上げてもうるさくなるだけで前に出ないなら、場所が空いていません。次へ進みます。
手順2|EQ で「場所を空ける」
★★★ ここが本題です。
多くの記事は 「ボーカルの 2.5〜5 kHz を持ち上げる」と書いています。効くこともあります。ただ、上げると音量が増えるだけで、競合は解消しません。
上げるのではなく、ぶつかっている相手を下げる。
誰とぶつかっているのか
ボーカルの居場所は、だいたいこのあたりです。
| 帯域 | ボーカルの成分 | ★ よくぶつかる相手 |
|---|---|---|
| 200〜500 Hz | 太さ・胴鳴り | ギター、ピアノ、シンセパッド |
| 1〜3 kHz | 言葉のはっきりさ | ★★ スネア、ギター、シンセリード |
| 3〜6 kHz | 明るさ・抜け | シンバル、ハイハット、ギター |
★ 「1〜3 kHz でスネアとぶつかる」——これがいちばん多いパターンです。
やること
- ボーカル以外のトラックに EQ を挿します
- ボーカルとぶつかっている帯域を、2〜4 dB 下げます
- ★ Q は広め(1.0 前後)。狭く削ると不自然になります
★★ ギターやシンセの 1〜3 kHz を少し下げるだけで、ボーカルが前に出ます。ボーカルは一切触っていないのに、です。
★ どこでぶつかっているか、どうやって知るか
耳だけでは、まず分かりません。
★★ アナライザー(周波数の表示)が付いた EQ を使ってください。ボーカルとギターを交互に鳴らして、山が重なっているところを探します。
★ 無料でアナライザー付きの EQ は複数あります(→ 無料のイコライザーを、正直に比べる)。
手順3|コンプで「音量の差」を縮める
★★ 「サビだけ埋もれる」なら、ここが原因です。
Aメロは静かに、サビは強く歌う。それは正しい歌い方です。でもミックスでは、その差が大きすぎると埋もれます。
- サビに合わせて上げる → Aメロがうるさい
- Aメロに合わせて上げる → サビが埋もれる
★★★ どちらかを選ぶのではなく、差を縮めます。それがコンプです。
設定の目安
- レシオ 3:1
- しきい値を下げていって、大きいところで 3〜6 dB 削れるあたり
- アタック 10〜30 ms/リリース 100〜250 ms
- ★ 削ったぶんを MAKEUP で戻す(★ 忘れると音量が下がるだけです)
★★ 削れている量が画面で見えるコンプを使ってください。見えないと「効いているのかどうか」が分からず、追い込めません(→ 無料のコンプレッサーを、正直に比べる)。
手順4|サ行が邪魔で上げられないとき
★ 「もう少し上げたいのに、『し』『す』だけが刺さって上げられない」
これはよくあります。サ行の一瞬だけが飛び出しているので、全体を上げるとそこだけ痛くなります。
★★ ディエッサーでサ行だけを抑えると、全体をもう少し上げられます。
★ 男性なら 5〜6 kHz、女性なら 7〜8 kHz あたりです(→ 無料のディエッサーを、正直に比べる)。
手順5|リミッターは、いちばん最後
★★ リミッターで埋もれは直りません。
リミッターは全体を押さえる道具です。ボーカルだけを持ち上げる力はありません。
★ 順番を守って、最後にマスターへ1本。それだけです(→ 無料のリミッターを、正直に比べる)。
★★ 音圧を上げれば前に出る、は間違いです。配信サービスは音量を揃えるので、上げても得がありません。
★ よくある間違い
① ボーカルにばかり手を入れる
★★ 埋もれの原因は、たいていボーカル以外にあります。
ボーカルを何度いじっても直らないときは、他のトラックを触ってください。
② リバーブをかけすぎている
★ リバーブは音を奥に押しやります。
「前に出したい」のに残響が多い——これは矛盾しています。ボーカルのリバーブを一度切って、聴き直してみてください。
③ 音量を揃えずに比べている
★★★ これが最大の落とし穴です。
人は大きいほうを「良い」と感じます。プラグインを掛けた/切ったを比べるときは、必ず同じ音量に揃えてからにしてください。
★ 揃えずに比べると、「上げただけ」を「良くなった」と勘違いします。
④ 全部のトラックにプラグインを挿している
★ 何が効いているか分からなくなります。触るのは、問題があるトラックだけです。
まとめ
- ★★ 上げても直らないのは、場所が空いていないから
- ★ 順番を守る:フェーダー → EQ → コンプ → ディエッサー → リミッター
- ★★ ずっと埋もれるなら EQ で場所を空ける。サビだけ埋もれるならコンプで差を縮める
- ★ ボーカル以外を触る。ぶつかっている相手を 2〜4 dB 下げるだけで前に出ます
- ★★★ 比べるときは音量を揃える。揃えないと「大きいほう」を良いと感じます
★ この記事でやることは、すべて無料のプラグインでできます。道具選びは、それぞれの記事にまとめました。


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