【2026年版】無料のディエッサー4本を、正直に比べる

ミックスの困りごと

サ行が耳に刺さる。ディエッサーを入れればいいらしい。でも調べると、出てくるのは1万円を超える有料プラグインばかり。

「無料」で検索したのに、無料のものが1つしか載っていない。

この記事では、いま実際に使える無料のディエッサーだけを4本集めて比べます。

★ 先に言っておきます。4本のうち1本は、私が作ったものです。だから「どれが一番いいか」ではなく、どれをどういうときに選ぶかを書きます。自分のを勧めない場合も、そのまま書きます。


ディエッサーとは何か

サ行・シャ行の「シュッ」という音だけを、狙って小さくする道具です。

歌を録ると、「し」「す」「しゃ」の瞬間だけが飛び出して耳に刺さることがあります。この音を 歯擦音(しさつおん) と呼びます。

なぜイコライザーではダメなのか

「その周波数を下げればいい」と思うかもしれません。でも、それだとサ行が出ていないところまでずっと下がります。

歯擦音が出るのは一瞬だけです。ずっと下げると、こもった声になります。

ディエッサーは、その一瞬だけ下げます。だから声の明るさが残ります。

なぜコンプやリミッターでは代われないのか

★ ここが分かりにくいところなので、少し丁寧に書きます。

ミックスの最後には、たいていリミッターを使います。決めた音量より大きくならないよう押さえつける道具です。

リミッターは「サ行だけ」を下げられません。「いま全体が大きすぎる」としか分からないので、全部まとめて下げます。

つまり、サ行が飛び出るたびに——

歌も、ギターも、ドラムも、いっしょに一瞬小さくなる。

これが、曲全体が落ち着かなく聞こえる原因のひとつです。だから、サ行だけを狙えるディエッサーで先に抑えておくわけです。

★★ 聴いて違いが分からなくても、これは起きています。サ行の削れは、慣れていないと聴き取れません。それが普通です。耳が悪いわけではありません。


★ 無料ディエッサーは「見せない派」と「全部見せる派」に分かれる

ここが、選ぶときに一番効く違いです。値段でも音質でもありません。

見せない派

画面にツマミしかありません。グラフも波形もない。

これは手抜きではなく、思想です。 Techivation は公式にこう書いています。

visuals can distract your hearing

(表示は、聴くことの邪魔になりうる)

★ 一理あります。グラフが動くと、人は音ではなくグラフを見て判断し始めます。「耳で決めろ」という設計です。

向いている人:耳に自信がある人。細かいことを考えず速く済ませたい人。

全部見せる派

いま何 kHz を狙っていて、どれだけ削れているかを、画面に出します。

★ これも一理あります。サ行の削れは、慣れていないと耳では分かりません。分からないまま回していると「効いていない」と思って諦めます。目で見えれば、合っているかどうかを自分で確かめられます。

向いている人:ミックスを始めて間もない人。耳に自信がない人。なぜそうなるのかを理解しながら進めたい人。


★★ どちらが正しいということはありません。ただ、自分がどちら側かは、たいてい分かっているはずです。

「聴いても違いが分からない」と感じたことがあるなら、見せる側を選んでください。それは耳が悪いのではなく、まだ慣れていないだけです。見えていれば、慣れるまでの間も手が止まりません。


選び方|3つのチェックポイント

① どこまで見せてくれるか

上に書いた軸です。自分がどちら側かで決めてください。

具体的には、こういう表示があるかどうかです。

  • スペクトラム(どの高さの音が、いまどれだけ鳴っているか)
  • 検出帯の表示(いま何 kHz を狙っているか)
  • しきい値の線(どこから削り始めるか)
  • 削り量の表示(いま何 dB 削れたか)

② 削る周波数を自分で決められるか

歯擦音の周波数は、人によって違います。

歯擦音が出やすい帯
男性おおむね 5〜6 kHz
女性おおむね 7〜8 kHz

数字を自分で動かせないと、自分の声に合わせられません。「効かない」と感じる原因の多くはここです。

③ 自分の環境で動くか

Mac なのに Windows 専用、AAX が要るのに VST3 しかない——動かなければ、どんなに良くても意味がありません。


無料ディエッサー4本【2026年版】

★ 順位ではありません。タイプが違うだけです。

見せない派 ─ Techivation T-De-Esser 2

いちばん間口が広い1本です。

→ 公式サイト(無料): https://techivation.com/t-de-esser/

  • Windows 7 以上 / macOS 10.11 以上 / iPadOS
  • VST・VST3・AU・AUv3・AAX
  • Intensity(効き)と Sharpness(鋭さ)の2つが中心
  • Diff / Filter … 削っている音・狙っている帯域を耳で確認できる

★ 周波数は 4段階のボタンから選ぶ方式です。数値で細かくは指定できません。そのぶん迷いにくいので、「とりあえずサ行を抑えたい」には向いています。

★ 画面にスペクトラムやグラフはありません。これは前述のとおり、あえてです。入出力のレベルメーターだけがあります。

★★ Mac の方、iPad で作る方は、まずこれです。この記事の他の3本は Windows 中心なので、選択肢がここしかない場面があります。


全部見せる派 ─ SORYNO DEESS Free(私が作ったものです)

いま何が起きているかを、いちばん詳しく出します。

→ ダウンロード(無料): https://pinzu.booth.pm/

画面を見てください。

SORYNO DEESS Free の画面。紫の帯が狙っている周波数、線がしきい値、FREQ が 4.80 kHz
SORYNO DEESS Free。紫の帯が狙っている周波数、そこに引かれた線がしきい値です。PRO バッジの付いたつまみは Pro 専用で、灰色で見えています。
  • 紫の帯 … いま狙っている周波数の範囲
  • そこに引かれた線 … しきい値(ここを超えたら削る)
  • 右上の数字 … いま何 dB 削れているか
  • 左下 … FREQ が「4.80 kHz」と数値で出ている

★ 周波数を数値で自由に動かせます。男性なら 5〜6 kHz、女性なら 7〜8 kHz——自分の声に合わせて、そこへ直接持っていけます。

そして LISTEN を押すと、削っている音だけが聞こえます。

★★ 下の画像を見てください。LISTEN を入れると、右の OUT メーターが −8.7 dB から −36.0 dB まで落ちています。「削っているぶんだけが残っている」というのが、数字で見えます。

LISTEN を ON にした画面。右の OUT メーターが -8.7 から -36.0 dB に下がっている
LISTEN を ON にしたところ。右の OUT メーターが −8.7 → −36.0 dB まで落ちています。削っているぶんだけが残っている、ということです。

★ 慣れないうちは、これが効きます。歌詞が聴き取れないくらい「ス」「シ」だけが聞こえていれば、狙う場所は合っています。耳だけで判断しなくて済みます。

そのほか:

  • THRESHOLD … どこから削り始めるか
  • RANGE … どれだけ削るか
  • プリセット 18種(Female Vocal / Male Vocal – Deep / Podcast / Cheap Mic Rescue など)
  • 期限なし・使用回数制限なし・ライセンス認証なし
  • 約7MB

不利なことも書いておきます。

  • Windows 専用・VST3 のみMac 版・AAX 版はありません
  • ダウンロードに 無料の pixiv アカウントが要ります(BOOTH で配っているため)
  • コード署名証明書をまだ取っていないので、初回起動時に Windows の警告が出ます

★★ Mac の方は T-De-Esser 2 を選んでください。ここは選びようがありません。


見せるが、専用ではない ─ TDR Nova

ディエッサー専用ではありません。4バンドのダイナミックEQです。

→ 公式サイト(無料): https://www.tokyodawn.net/tdr-nova/

  • Windows 7 以上 / macOS 10.9 以上、VST2・VST3・AU・AAX
  • スペクトラム表示としきい値のカーブがあり、表示は充実しています
  • 歯擦音の帯だけを「大きいときだけ下げる」設定にすれば、ディエッサーとして働く

無料でこの完成度は稀です。

★ ただし汎用のEQなので、画面に「ここが歯擦音です」という案内はありません。どこを狙うかは自分で決めて、自分で設定します。「ディエッサーが欲しい」という段階の人には、遠回りになります。

★★ 逆に、EQ の仕組みごと覚えたい人には、これが一番勉強になります。


いちばん新しい ─ GARUC Audio Deess-ertic Lite

2026年3月に出たばかりの1本です。

→ 公式サイト(無料): https://garucaudio.com/plugins-deess-ertic-lite/

  • Windows 10 以上 / macOS 12〜26(Intel・Apple Silicon 両対応)
  • AAX・AU・VST3
  • Frequency selector(狙う周波数)と Process(効き)が中心
  • Detector listening … 検出している音を聴ける
  • Reduction monitoring … いまどれだけ削れているかが分かる
  • 画面の大きさを変えられ、テーマも複数。プリセットあり

いま出ている無料ディエッサーの中で、いちばん新しく、いちばん対応が広い1本です。Mac の新しいOSまで面倒を見ています。

★ スペクトラム表示については公式に記載がありません(削り量の表示はあります)。「全部見せる」と「見せない」の中間にあたります。

★★ 迷ったとき、Mac の人の2つ目の選択肢としても有力です。


比較表

T-De-Esser 2SORYNO DEESS FreeTDR NovaDeess-ertic Lite
タイプ見せない全部見せる見せる(汎用EQ)中間
スペクトラム✕(あえて)記載なし
狙っている帯の表示△(自分で設定)記載なし
しきい値の線記載なし
削り量の表示○(数値)
削る音だけ聴くDiff / FilterLISTEN帯域ソロDetector listening
周波数の指定4段階から選ぶ数値で自由数値で自由記載なし
Windows
Mac○(12〜26)
iPad
形式VST/VST3/AU/AUv3/AAXVST3のみVST2/VST3/AU/AAXAAX/AU/VST3
ディエッサー専用
入手の手間サイトで登録pixivアカウントそのままカートに入れる

★ 「記載なし」は、公式に書かれていないという意味です。無いとは限りません。実際に入れて確かめるのがいちばん確実です。

★★ 「削る音だけ聴く」は4本すべてが持っています。特別な機能ではありません。分かれるのは、画面がどこまで見せてくれるかのほうです。


使い方|3ステップ

どのプラグインでも、やることは同じです。

1. 場所を決める

まず LISTEN(または Diff / Filter)を ON にします。削っている音だけが聞こえます。

周波数を動かして、「ス」「シ」だけがはっきり聞こえる位置を探します。

  • 歌詞が聴き取れる → まだ低すぎます。上げてください
  • 「サー」というノイズだけ → 高すぎます。下げてください

★ 男性なら 5〜6 kHz、女性なら 7〜8 kHz から始めると近道です。

2. 量を決める

LISTEN を OFF に戻し、しきい値を下げていきます。

★★ やりすぎの見分け方があります。「し」が「ひ」に聞こえ始めたら、削りすぎです。1段戻してください。

3. 確かめる

バイパス(切)と入れた状態を、何度か切り替えます。

★ 違いが分からなくても大丈夫です。それが普通です。削り量の表示が動いていれば、効いています。そして、聴いて分からなくても、リミッターの動き方は変わっています。


よくある質問

Q. 有料と無料で、そんなに違いますか

違います。ただし、違うのは「音が良くなる度合い」より手数と速さです。

有料のもの(FabFilter Pro-DS、Soothe 2 など)は、帯域を分けて処理したり、自動で追従したりします。速く、失敗しにくい。

★ ただし、サ行を抑えるという結果自体は、無料でも出せます。最初の1本を有料にする必要はありません。

Q. どれか1つだけ選ぶなら

  • iPad で作る方T-De-Esser 2 一択です
  • 聴いても違いが分からない・目で確かめたいSORYNO DEESS Free(Windows のみ)
  • Mac の方T-De-Esser 2Deess-ertic Lite
  • EQ の仕組みごと覚えたいTDR Nova

Q. 表示が多いほうがいいのですか

人によります。

耳で判断できる人には、表示は邪魔です。Techivation が「表示は聴くことの邪魔になりうる」と書いているのは、そういう意味です。

★★ ただ、慣れるまでの間は、見えていたほうが手が止まりません。「効いているのか分からない」で諦めるのが、いちばんもったいない。

Q. かけすぎるとどうなりますか

「し」が「ひ」に近づき、歌がこもって聞こえます。★ 迷ったら弱めに。足りないより、削りすぎのほうが直しにくいです。

Q. マスターにかけてもいいですか

おすすめしません。マスターにかけると、シンバルやハイハットまで一緒に削れます。ボーカルのトラックだけにかけてください。


まとめ

  • 無料のディエッサーは、ちゃんと使えるものが実在します(4本とも公式サイトから入手できます)
  • 分かれ道は値段でも音質でもなく、「見せない」か「全部見せる」か
  • 聴いても違いが分からないなら、見せる側を選んでください。

耳が悪いのではなく、まだ慣れていないだけです

  • Mac / iPad なら T-De-Esser 2。ここは選択肢が限られます

★ この記事で見てきた画面は、SORYNO DEESS Free(Windows / VST3・無料)のものです。期限も、使用回数の制限も、ライセンス認証もありません。

ダウンロード → https://pinzu.booth.pm/

★ 繰り返しますが、Mac の方は T-De-Esser 2 を選んでください。こちらには Mac 版がありません。


ディエッサーで直らないときは

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