録った歌をオケに重ねた。オケに埋もれて、何を歌っているか分からない。
ボーカルの音量を上げてみた。うるさくなっただけで、埋もれたままだ。調べたら「EQ・コンプ・ディエッサー・リバーブ・ディレイ・ピッチ補正」と出てきて、どこから手を付ければいいのか分からなくなった——。
★★★ やることを減らしてください。
歌ってみたのミックスで、本当に効くのは4つだけです。残りは「要ると分かってから」で間に合います。
★★ 先に、この記事が向かない方へ
正直に書いておきます。
| こういう方 | この記事は |
|---|---|
| ★ スマホだけで完結したい | ★★ 向きません。この記事は PC で DAW を使う前提です |
| ★ Mac をお使い | 手順は同じですが、★★ 私が作った道具は使えません(Windows の VST3 のみ) |
| 人に頼みたい | ★ それでいいと思います。時間を買うのは正しい判断です |
| PC で、自分で終わらせたい | ★★★ この記事の通りにやれば終わります。道具代は0円です |
★ 私は Windows 向けの無料プラグインを作っている者です。この記事にもそれが出てきます。ただしピッチ補正・リバーブ・ディレイは作っていません。そこは他の道具を使います。
★★★ 触るのは、この4つだけ
| やること | 何のため | |
|---|---|---|
| 1 | ★★ フェーダー(音量) | ★★★ ここで7割決まります。プラグインより先 |
| 2 | EQ(引き算) | オケとぶつかっている帯域を空ける |
| 3 | コンプ | 大きい所と小さい所の差を詰める |
| 4 | ディエッサー | サ行の刺さりを抑える |
★★ リバーブとディレイは、この4つが終わってからです。先に足すと、輪郭がぼやけた状態で音量を判断することになります。
★★★ 順番を変えないでください。上から順にやります。
手順0|下ごしらえ(ここは私の道具ではできません)
★ ミックスに入る前に、録音そのものを整えます。
| やること | 何を使うか |
|---|---|
| 位置合わせ(オケと歌の頭を揃える) | ★ DAW の標準機能。波形を見てドラッグするだけ |
| 大きなノイズ・不要なブレスを削る | ★ DAW でその部分だけ音量を下げる |
| ★★ ピッチ補正 | ★ 別の道具が要ります(下記) |
★★★ ピッチ補正は、私は作っていません。正直に書きます。
無料で定番なのは Auburn Sounds の Graillon です。→ 公式: https://www.auburnsounds.com/products/Graillon.html
★★ 注意:よく「Graillon 2」として紹介されていますが、いま配られている無料版は 3.2 です。2026年9月6日に公式の ZIP を実際に落として、中身を開いて確かめました(Windows の exe・Mac の pkg・Linux 版が入っています)。★ Mac でも動きます。
★ 有料版もあります($29)。無料版で始めて構いません。
★★ かけすぎに注意。ピッチ補正は強くかけるほど機械的になります。外れているところだけ直してください。
手順1|プラグインを全部切って、フェーダーだけで合わせる
★★★ ここがいちばん大事です。そして、いちばん飛ばされます。
ボーカルにも、オケにも、何も挿さない状態にしてください。そのうえで、ボーカルのフェーダーだけを動かして、いちばん良いところを探します。
★ 探し方:
- ボーカルを完全に消えるところまで下げる
- そこから少しずつ上げる
- ★★ 歌詞が聞き取れるようになった最初の位置で止める
- そこから 1〜2 dB だけ上げる
★★★ この時点で「まだ埋もれている」なら、原因はミックスではなくオケです。オケが詰まりすぎていて、ボーカルの居場所がありません。手順2で空けます。
★★ 音量で解決しようとしないこと。上げ続けると、サビでうるさく、Aメロで聞こえない、という一番よくない状態になります。
手順2|EQ で「引く」。足さない
★★★ ボーカルを上げるのではなく、オケを削って場所を空けます。
★★ どこを削るかの見つけ方
削る場所は、耳で探さなくても見えます。
★ オケとボーカルに、アナライザー付きの EQ を挿して、両方を鳴らします。
| 見えるもの | やること |
|---|---|
| ★★ 200〜500 Hz で両方が大きい | ★★★ オケ側を 2〜4 dB 下げる。ボーカルではありません |
| 2〜4 kHz で両方が大きい | ★ オケ側を 2〜3 dB 下げる(ここが言葉の帯域です) |
| ボーカルの 100 Hz 以下に何かある | ★ ハイパスで切る(歌に低音は要りません) |
★★★ 削るのはオケ側です。ここを間違えると、いくらボーカルを触っても直りません。
→ アナライザーの無い EQ では見えません。無料のイコライザーを、正直に比べる
★★ こもりが取れないときは、こちらに詳しく書きました。ミックスがこもる。EQで直るこもりと、直らないこもり
★ それでも埋もれるときは、原因が別にあります。ボーカルが埋もれる。上げても直らない理由
手順3|コンプで、大きい所と小さい所を詰める
★ 歌は、Aメロが小さくサビが大きいのが普通です。そのままだと、サビに合わせると Aメロが聞こえず、Aメロに合わせるとサビがうるさくなります。
★★ コンプの目的は「大きくすること」ではありません。差を詰めることです。
| つまみ | 目安 |
|---|---|
| スレッショルド | ★★ GR(減った量)が 3〜6 dB 動くところまで下げる |
| レシオ | 3:1 〜 4:1 |
| アタック | 10〜30 ms(★ 速すぎると言葉の頭が潰れます) |
| リリース | ★ 歌のテンポに合わせる。AUTO があればそれで十分 |
★★★ GR メーターを見てください。ずっと振り切っているなら掛けすぎ、ほとんど動かないなら掛かっていません。
★ 数字より、動きを見るほうが速いです。無料のコンプレッサーを、正直に比べる
★★ 掛けたら、音量が下がります。メイクアップ(出力)で戻してから比べてください。★★★ 音量を揃えずに比べると、必ず判断を誤ります。
手順4|ディエッサーで、サ行だけ抑える
★ ここまでで、たいていサ行が痛くなっています。EQ で高域の場所を空け、コンプで小さい音を持ち上げたからです。
★★ EQ で高域を下げてはいけません。サ行と一緒に、歌の明るさまで消えます(サ行が鳴っていない時間まで下がるためです)。
★★★ ディエッサーは「サ行が鳴っている瞬間だけ」下げます。そこが違いです。
★ 目安は 5〜10 kHz のあたり。削りすぎると「サ」が「タ」に聞こえます。一度やりすぎるところまで掛けて、戻してくるのが早いです。
★ リバーブとディレイは、DAW 標準で十分です
★★ 私はリバーブもディレイも作っていません。ここも正直に書きます。そして買う必要もありません。どの DAW にも入っています。
| 目安 | |
|---|---|
| リバーブ | ★ かかっているか分からないくらい。長さ 1.5〜2秒、混ぜる量 10〜20% |
| ディレイ | ★ サビだけ、フレーズの終わりに薄く |
★★★ リバーブを増やすと、必ず遠くなります。「馴染ませたい」と思って足すと、埋もれます。迷ったら減らしてください。
★★★ 効いたかどうかは、見て確かめる
★ 「なんとなく良くなった気がする」で進めると、最後にまとめて崩れます。
| 気になること | 見る場所 | 正体 | やること |
|---|---|---|---|
| ★★ まだ埋もれる | アナライザーの 200〜500 Hz | オケが場所を取っている | ★ オケ側を削る(手順2) |
| サビでうるさい | コンプの GR | 差が詰まっていない | 手順3をやり直す |
| ★ サ行が痛い | 5〜10 kHz | 歯擦音 | ディエッサー(手順4) |
| 遠い・ぼやける | — | ★★ リバーブのかけすぎ | 減らす |
| ★ オケから浮く | — | ★ リバーブが足りない/EQ の削りすぎ | 少し戻す |
| 書き出すと音が割れる | ★ マスターのメーター | 上げすぎ | → マスタリングの記事 |
★★ 音量を揃えて、切り替えて聴いてください。これだけで判断の精度が変わります。
★★ やらなくていいこと
★★★ 上位の記事が7〜8段の手順を並べていますが、最初は全部要りません。
| よく書かれていること | 最初は |
|---|---|
| マルチバンドコンプ | ★★ 要りません。普通のコンプで足ります |
| サチュレーター/エキサイター | ★ 要りません |
| ステレオを広げる処理 | ★★★ やらないでください。ボーカルは真ん中が基本です |
| ダブリング(重ね録り) | ★ 要ると思ったときに |
| 自動マスタリングのサービス | ★ 使っても構いませんが、先に手順1〜4を |
★★ 減らせば、どこが効いたか分かります。足すのは、効いていないと分かってからです。
★ 全部、無料でそろいます
| 工程 | 使うもの | ★ 私が作っているか |
|---|---|---|
| 位置合わせ・ノイズ | DAW 標準 | — |
| ピッチ補正 | Graillon(無料版) | ★★ 作っていません |
| 音量 | DAW 標準のフェーダー | — |
| EQ | 無料の EQ | ★ 作っています |
| コンプ | 無料のコンプ | ★ 作っています |
| ディエッサー | 無料のディエッサー | ★ 作っています |
| リバーブ・ディレイ | DAW 標準 | ★★ 作っていません |
| 仕上げ(音圧) | 無料のリミッター | ★ 作っています |
★★ 不利なことも書いておきます。私の作ったものは——
- Windows 専用・VST3 のみ(★ Mac 版も AAX 版もありません)
- ダウンロードに 無料の pixiv アカウントが要ります(BOOTH で配っているため)
- コード署名の証明書をまだ取っていないので、初回起動時に Windows の警告が出ます
★★★ Mac の方は、DAW 標準の EQ・コンプ・ディエッサーで手順どおり進められます。道具を買い足す必要はありません。
まとめ
- ★★★ 触るのは4つだけ。フェーダー → EQ → コンプ → ディエッサー
- ★★ 手順1(フェーダーだけ)で7割決まります。ここを飛ばさないこと
- ★★★ EQ で削るのはオケ側です。ボーカルではありません
- ★ コンプは大きくする道具ではありません。差を詰める道具です
- ★★ リバーブは足すほど遠くなります。迷ったら減らす
- ★★★ 音量を揃えて比べる。揃えないと、大きくしただけで良く感じます
- ★ ピッチ補正とリバーブは、私は作っていません。無料の道具と DAW 標準で足ります
★ この記事でやることは、すべて無料でできます。


コメント